ぱ〜そなるケアでは、訪問看護・訪問介護の現場では、人工呼吸器や吸引器などの医療機器が利用者様の生命を支えています。これらの機器は電力に依存しており、災害時の停電は、まさに生命の危機に直結します。
2024年度の介護報酬改定により、すべての介護サービス事業所にBCP(事業継続計画)の策定が義務化されました。しかし、「計画書は作成したが、実際に動けるのか?」という不安の声も多く聞かれます。
そこで当事業所では、「知っている」を「できる」に変える実践的なBCP訓練を実施しました。
訓練の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 訓練実施日 | 2025年9月22日 |
| 訓練テーマ | 災害時の停電を想定したガス発電機による電源確保 |
| 参加人数 | 職員10名(全職員参加) |
| 使用機器 | EENOUR製 ガスボンベ式インバーター発電機、業務用電源コードリール |
| 訓練場所 | 事業所玄関前(屋外)→事務所内への電力供給 |
| 訓練時間 | 約90分(説明30分+実技60分) |
訓練の目的
実機操作スキルの習得 – 全職員が発電機を起動できるようになる
燃料交換作業の習熟 – ガスボンベの安全な取り付け・取り外し方法を学ぶ
実践的な配線作業 – 屋外の発電機から室内への安全な電力供給方法を学ぶ
災害対応力の強化 – 停電時に慌てず冷静に行動できる自信をつける
医療機器継続稼働の確保 – 人工呼吸器等の生命維持装置を停電時も維持できる体制を確認
使用機器の詳細
EENOUR製 ガスボンベ式インバーター発電機
訓練で使用したのは、EENOUR(イーノウ)製のポータブル型インバーター発電機です。
製品の特徴
基本性能
- 定格出力: 900W(最大出力: 1,000W)
- 燃料: カセットガスボンベ(CB缶 250g)
- 連続稼働時間: 約2.2時間(定格負荷時)
- 騒音レベル: 約52dB(図書館並みの静音性)
- 重量: 約19.5kg(女性でも持ち運び可能)
- カラー: イエロー&ブラック(視認性の高いカラーリング)
安全機能
- インバーター制御による安定した電力供給
- 過負荷保護機能
- オイル不足自動停止機能
- 転倒時自動停止機能
操作性
- 前面パネル: 出力端子、インジケーター、スイッチ類を集約
- 上面: ガスボンベ装着部(ワンタッチ取り付け)
- 側面: リコイルスターター(エンジン始動用)
カセットガスボンベ(CB缶)
市販のカセットコンロ用ガスボンベ(CB缶 250g)を使用できるため、災害時でも入手しやすいという大きなメリットがあります。
備蓄の利点
- コンビニやホームセンターで入手可能
- 長期保管が可能(製造から約7年)
- 一般的なカセットコンロと共用できる
- 価格が手頃(1本あたり約100〜150円)
訓練の流れ – 実際の操作手順
【事前説明】災害時の電源確保の重要性(約30分)
まず、講師から以下の内容について説明を受けました。
- 在宅医療における電源の重要性
- 過去の災害事例(停電による影響)
- ガス発電機の特徴と安全な使用方法
- 設置場所の選定基準(換気・騒音・安全確保)
- ガスボンベの安全な取り扱い方法
- 延長コードの安全な使用方法
【実技訓練】全員が実際に操作を体験(約60分)
参加者全員が、実際に発電機の準備から起動、停止までの一連の操作を体験しました。
STEP 1: ガスボンベの取り付け
操作手順
- 発電機本体の確認 – 水平で安定した場所に設置
- ガスボンベのキャップを外す – 赤いキャップを反時計回りに回して外す
- ボンベを発電機上部にセット – ボンベのノズルを発電機の接続部に合わせる
- カチッと音がするまで押し込む – 確実に装着されたことを確認
- ガス漏れチェック – 接続部から「シュー」という音がしないか確認
重要な注意点
- ボンベは必ず垂直に装着する
- 斜めに入れると正しく装着できない
- 装着時は力を入れすぎない(カチッと音がすれば十分)
STEP 2: 発電機の操作準備
操作手順
- 前面パネルを開く – 出力端子とスイッチ類にアクセス
- 電源スイッチをONにする
- 運転モードを選択 – エコモード/通常モードを選択
- チョークレバーを調整 – 初回始動時は「閉」に設定
STEP 3: エンジンの始動
操作手順
- リコイルスターターのグリップを握る
- ゆっくり引いて重さを感じる位置まで引く
- 勢いよく引き切る – 腕全体を使って引く
- エンジンがかかるまで繰り返す – 通常2〜3回で始動
- アイドリング音を確認 – 安定したエンジン音を確認
STEP 4: 電力供給の開始
- エンジンが安定するのを待つ – 約30秒〜1分
- 電源コードリールを接続 – 発電機の出力端子にプラグを差し込む
- ケーブルを全て引き出す – 巻いたまま使うと発熱の危険
- 室内への配線 – 玄関ドアの隙間を通して室内へ
- 必要機器に接続 – パソコン、照明などに電力供給
STEP 5: 停止手順
- 接続機器の電源を切る – 負荷をゼロにする
- 発電機の電源スイッチをOFFにする
- エンジンが完全に停止するのを待つ
- ガスボンベを取り外す – レバーを操作して取り外し
- 冷却時間を確保 – 触れるまで冷ましてから収納
訓練で実際に供給した機器
事務所機能の維持
訓練では、実際に以下の機器への電力供給を行いました。
| 機器 | 消費電力 | 稼働時間 | 備考 |
|---|---|---|---|
| ノートパソコン2台 | 約100W | 2時間 | 業務記録の継続 |
| LED照明 | 約20W | 2時間 | 最低限の照度確保 |
| 電話機 | 約5W | 2時間 | 連絡体制の維持 |
| スマホ充電器3台 | 約45W | 2時間 | 通信手段の確保 |
| 合計 | 約170W | 2時間 | 定格出力の約19% |
参加者の声 – 訓練を通じて得た気づき
「実際に操作することで得られた自信」
今回のBCP訓練では、ガスボンベを用いた発電機の起動方法を実際に体験し、災害時に必要となる電源確保の重要性を改めて学びました。事務所の最低限の運営に加え、人工呼吸器などの医療機器を継続して使用できる体制を整えることは、在宅分野での利用者の安心につながると実感しました。実際に自分の手で発電機を操作することで、マニュアルだけでは得られない具体的な理解と自信を得ることができました。停電時に慌てず対応するためには、こうした訓練を繰り返し行うことが不可欠だと感じました。
💬 「在宅医療の現場だからこその責任」
今回のBCP訓練を通じて、非常時における電源確保の重要性を強く感じました。特に、在宅医療の現場では人工呼吸器など電力が不可欠な機器を利用している利用者も多く、停電時に備えた具体的な手段を知ることは大変意義深いものでした。実際にガスボンベを用いた発電機の起動を体験することで、理論だけでなく「自分自身で確実に操作できる」という安心感を得られたことが大きな収穫です。災害時は不安や焦りから冷静さを失いやすいからこそ、こうした訓練の積み重ねが落ち着いた対応につながると感じました。
💬 「一度やってみないと分からない」
今回、発電機に触れ、起動させる訓練を受け緊急時に対応ができる自信がつきました。自分はなかなかエンジンをかけることができなかったので訓練できてよかったです。今後も様々な緊急時を意識して訓練して対応できるよう頑張ります。災害時の電力確保という事で初めて発動機を稼働させました。稼働させるための手順は、一度実施しておかなければわからないと思いました。
💬 「具体的な情報を得られた安心感」
台風災害時等を想定した電力確保の実演(ガス発電機)に参加しました。災害発生時にどのような場所に準備したら良いのかや実際の手順についても直接体験することで、より具体的に学ぶことができました。どの位の時間、どの位の電気が使えるのか等の情報も説明を受け理解することができました。有事の際に慌てることなく、今回の経験を活かせるように振り返りも行いたいと思います。
💬 「五感で学ぶ実践訓練」
今回の発電機を使ったBCP研修は、非常に実践的で良い経験になりました。実際に発電機を動かすことで、よりリアルに感じられました。特に、発電機の始動音や燃料の匂いなど、五感で体験できたことで、災害時の状況を具体的にイメージできるようになりました。いざという時に焦らず対応するためにも、定期的な研修が必要だと感じました。
💬 「個人差への気づき」
発電機に触れたのは初めてでしたが、使い方や注意すべき点がよく分かりました。私は左手のほうが動かしやすかったです。特に、燃料の取り扱いや騒音、設置場所の確認など、事前に知っておくべき重要なポイントを学ぶことができ、災害時に安全に作業を行う自信がつきました。実際に手を動かして学ぶことで、テキストを読むだけでは得られない貴重な学びがありました。
💬 「継続的な訓練の重要性」
停電時の電力確保に参加しました。この研修会では、実際に発電機を利用しての電力確保について深く掘り下げる機会を与えていただきました。発電機は簡単に使える物でしたが、実際の停電時に利用できるように継続して使えるようにしておく必要があると感じました。
今後の取り組み – BCPをさらに強化するために
定期訓練の実施計画
年間スケジュール
| 時期 | 訓練内容 | 対象 |
|---|---|---|
| 春季(4月) | 発電機操作訓練 + 新入職員研修 | 全職員 |
| 夏季(7月) | 台風・水害・地震発生を想定した避難誘導訓練 | 全職員 |
| 冬季(1月) | 大雪・寒波対策訓練 | 全職員 |
備品の点検体制の確立
定期点検スケジュール
| 点検項目 | 頻度 | 担当者 | 確認内容 |
|---|---|---|---|
| ガスボンベ在庫確認 | 毎月 | 施設管理責任者 | 本数・使用期限 |
| 発電機の試運転 | 半期ごと | 全職員(持ち回り) | オイル交換・総合点検 |
| 電源コードの点検 | 半期ごと | 施設管理責任者 | 断線・劣化確認 |
利用者様・ご家族への情報提供
当事業所の災害対策について、以下の方法で情報発信を行います
- 定期訪問時の説明資料配布 – 「当事業所の停電対策」リーフレット
- ホームページでのBCP対策紹介 – 本記事の公開
- 家族会での訓練報告 – 年1回の報告会実施
- 緊急連絡網の再確認 – 半年ごとの更新と説明
BCPの本質:「備えること」が「守ること」
今回のBCP訓練を通じて、職員一人ひとりが「自分自身で確実に操作できる」という自信を得ることができました。
災害は予測できません。しかし、備えることはできます。
特に在宅医療・介護の現場では、私たちの備えが利用者様の生命を守る最後の砦となります。
💡 訓練で得られた3つの成果
- 技術的自信 – 全職員がガスボンベの装着から発電機の起動、配線作業までできるスキルを獲得
- 心理的安心 – 「いざという時にできる」という確信
- 組織的備え – チームとしての連携体制の確認と強化
BCPの真の目的
BCPは「計画書を作ること」が目的ではありません。
「いかなる状況でも、利用者様へのサービスを継続できる体制を整えること」
それが真のBCPです。
訓練は「利用者様への約束」
「停電したら来てもらえないのでは…」
「人工呼吸器が止まったらどうしよう…」
そんな利用者様の不安に、私たちは訓練を通じて応えます。
「大丈夫です。私たちには備えがあります」
今回の訓練は、そんな約束を果たすための大切な一歩です。
今後も定期的な訓練を重ね、職員全員が即応できる体制を維持してまいります。

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